保険会社でアクチュアリーの実務に携わっている者です。(まだ新米です。) エクセルとか統計ソフト、アクチュアリー用の分析ソフトとかがあるので、計算やマニュアル化できる業務はすでに機械に置き換わっています。アクチュアリーに任されるのはいわゆる「頭を使う仕事」だけです。(理想論はこうなりますが、もちろん現実的には単純作業もたくさんやらないといけないです。エクセルに数字打ち込んだり。早くそういう仕事を自動化してほしい!) ですので、アクチュアリーが人口知能(AI)に淘汰されるかというのは、AIがアクチュアリーの数理的推論の能力を超えてしまい、「頭を使う仕事」もAIがやるようになるのかという問題でしょう。 この業界で働いていて、すでに少しずつですが、アクチュアリーの世界にAIが入りこんできているというのを実感しています。世界では、保険のレーティングに機械学習を応用できないかということでビッグマネーが動いてるんだとか。 では、近い将来アクチュアリーは、AIに完全に置き換わってしまうのでしょうか? 僕の結論をいうと、既にAIは、アクチュアリーが考えるのと同等かそれ以上の分析能力を誇っていますが、それでもしばらくはAIがアクチュアリーにとって代わることはないんじゃないかというものです。 AIが、アクチュアリーにとって代わるための最も大きな課題は、結果の正確性や合理性をいかに説明するかだと思います。 アクチュアリーが実務で使うのは統計学ですが、AIとか機械学習と呼ばれているものも一種の統計学です。モデルに当てはめ、データからパラメータを推定し、結果を予測するというのは全く同じです。 では、どこが違うかというと、アクチュアリーが使うような所謂「統計学」は現象をいかに分かりやすく説明するかに興味があるのに対し、AIや機械学習ではできるだけ正確な予測をすることに興味があります。(ここら辺は程度問題で、両者の境界は限りなく曖昧です。) 統計学のアプローチは、シンプルなモデルにあてはめて、パラメータを推定し、本当にこんなモデルにあてはめて良かったのか検証するというような流れですが、AIのアプローチは、モデルが複雑になってしまってもいいので、ありとあらゆる可能性を考えて、とにかく予測力が高いモデルを選ぶという感じです。 統計学では、そこまで予測力が高くないものの、物事がどういう関係になっているのか人間の頭でも理解できる結果が出ます。AIだと、予測力は高いものの、モデルが複雑、あるいは直観に反していて、なんで正しい予測ができているのか人間の頭にはチンプンカンプンということになってしまう可能性があります。 アクチュアリー採用の説明会なんかに行くと、アクチュアリー社員に、実務では数学的な能力よりも、分かりやすく伝える能力が大事なんだよとドヤ顔で言われると思います。 アクチュアリーの仕事で、説明する力が大事だといわれる理由は、周りが文系社員ばっかりなので頑張って説明しないと分かってもらえないというのもありますが、保険業界というのが規制産業で、金融庁の厳しい監督を受けているからというのが大きいところです。 保険の新商品を販売するためには、金融庁の事前認可が必要なため、この商品をこの価格で売って、こういう風にリスク移転とかするから問題ないんですよ~とアクチュアリーが金融庁まで行って説明しないといけません。金融庁で審査する人間も、他の保険会社から出向してきているアクチュアリーだったりしますが、保険種目によってはアクチュアリーでない場合もありますし、採用する統計手法について意見が対立することもあって、なかなか難しい交渉を迫られます。(経営の意向を汲んで、商品案を持っていくので、数理的には金融庁の意見が正しいよな~と思いつつ、あらゆる自分たちに有利なデータをかき集めて何とか相手を納得させないといけないという場面が発生します。犯罪者の弁護をする弁護士のようです。) こういう状況がある中で、AIでいけんの?という話です。 金融庁相手に「AIが考えたところ、この数と数を足して掛けて二乗して三乗して…とやったら一番うまくいくみたいです。理由は分かりません。」といって通用するかという問題です。(実際には、「Overfitting」とよばれる問題があって、保険事故のような発生確率の低い事象に対して複雑なモデルをあてはめようとすると上手くいかないことが多いですが…) また、AIで得られた結果が、社会的な規範に照らして受け入れられるかという問題もあります。例として、自動車保険では、年齢や免許の色、等級などで事故率が違うので、それらのリスク項目で保険料を変える仕組みですが、AIを使ってみたら従来の分析では考えもしなかった項目、例えば結婚歴で事故率が違うということが分かったとします。では、結婚歴によって保険料が変わる商品を売りたいと金融庁に持っていったとして了承されるかといったら、答えはNOです。結婚歴で保険料を変えるのは差別じゃないかと問題になります。そもそも、自動車保険では保険料算出に使っていいリスク項目が法律で定められているので、事実として結婚歴で事故率が違うと分かったとしても、それをそのまま使うことはできないんです。 金融庁に説明がつくような簡単なモデルかつ、一般に受け入れられるようなリスク項目じゃないとダメということでいくとAIなんて使わなくて今まで通りでいいじゃんという結論になるでしょう。 AIという新しい技術が出てきたわけだから、今後は規制とか法律のほうが変わっていくべきなんじゃないかと僕は思います。そうして、ある程度自由に商品設計ができる環境が整ったときにAIが活躍する場面が出てくるのではないでしょうか。
なるほど:26
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