外国人が事件に巻き込まれたり、その当事者になった場合、言葉の壁があると捜査にも人権擁護にも支障をきたします。そこで、取り調べ、弁護活動、裁判などの各段階でコミュニケーションの支えとなるスペシャリストが必要とされます。それが司法通訳・翻訳者です。 日本語が理解できない来日外国人が何らかの形でかかわる「要通訳事件」は、この10年で10倍以上に急増したそうです。 司法通訳・翻訳者の認定制度は、日本ではまだ確立していません。各都道府県の警察、検察庁、裁判所、弁護士会が言語別に通訳者名簿を作成し、必要に応じて依頼しているのが現状です。外国人が関係する事件が多発する地域では警察内に通訳センターを設け、警察の取り調べ室での捜査官と被疑者とのやりとりや、検察官の取り調べを通訳する要員を派遣する業務を行っているそうです。 仕事の内容は言語によりかなり異なります。通訳者・翻訳者数が多い英語の場合には、警察内部にも通訳者がいるため、検察の取り調べや法廷での通訳が主な仕事になるそうです。 警察・検察通訳と法廷通訳は通常は別の通訳者が担当することになっているのだが、通訳者が少ない言語になると、そうもいかず、ひとりの通訳者が逮捕から判決に至るまで担当しなければならないこともあります。特殊な言語では、通訳のために大学の研究者が駆り出されるケースや、その言語のネイティブスピーカーで日本語のできる在日外国人を起用するケースも増えているそうです。 いずれにしても、いつ事件が起き、いつ容疑者が逮捕されるかは予測ができず、したがって、いつ通訳の依頼があるかは皆目見当がつきません。しかも取り調べは深夜に及ぶことも多い上、連日続くこともあり、ハードな仕事と言えそうです。 また、法廷通訳の場合は、軽い事件なら1回の裁判で判決が出ることもあるが、重大な事件なら長期にわたることもあります。長期の場合は、1、2カ月先の裁判のスケジュールがわかるので、ほかの仕事を入れやすいというメリットはあります。 通訳・翻訳者に求められる資質としては まず第一に、日本の司法制度や法律について熟知していることです。実際に裁判を傍聴するのも勉強になるでしょう。また、最高裁判所で出している各国語版の『法廷ハンドブック』を使えば、ある程度まで独学できます。各地方裁判所で開かれる「法廷通訳セミナー」にも積極的に参加するといいでしょう。通訳経験者の講義や模擬法廷での法廷通訳の実習などがあり、実践的な勉強ができます。 第二に、第三者としての考えを交えずに正確に訳すことです。一語一句漏らさずに訳すことはもちろんですが、たとえば発言者が「あれ」「これ」と代名詞で表現したことは、たとえそれが指す内容が明らかであっても、代名詞のまま訳さなくてはならないのです。 第三に、中立的な立場に立ち、私情を交えないことです。取り調べ中は捜査官または検察官と被疑者の間に立ち、法廷では裁判官、検察官、弁護人、被告人、そして証人……と相対するすべての人々の通訳を担当します。そこでは公平さを保つための集中力も必要とされます。 第四は、守秘義務を守ることです。仕事上で知り得た事柄を口外しないのは当然の職業倫理です。被疑者・被告人の人権について熟知しておくことも大切です。 東京・大阪などの大都市では要通訳の公判が連日開かれて、警察、検察での外国人の取り調べも毎日のように行われているそうです。しかし、司法通訳・翻訳一本で生計を立てるのは、現在では不可能です他の仕事をしながら、スケジュールが合えば依頼を請けるというのが一般的なようです。 仕事の依頼元は、警察、検察、弁護士会、裁判所です。その通訳人リストに登載してもらい、チャンスを待つ以外に方法はありません。登録者が少ない言語であれば選ばれる可能性は高いですがが、仕事の頻度は少ないかもしれません。 司法通訳・翻訳者の認定制度のあるアメリカ、カナダ、ドイツ、オランダなどから遅れをとっている日本ですが、将来的にはその資格認定制度ができ、警察、検察、裁判所などで司法通訳・翻訳者が語学専門職員として採用されるようになると思われます。日本国内でもすでにこうした職員を配置して、外国人受刑者と直接コミュニケーションをとっている刑務所もあるそうです。 また、都道府県によって差はあるが、司法通訳・翻訳者のための予算を数千万円ほど計上している自治体もあるそうです。
なるほど:2
< 質問に関する求人 >
通訳(東京都)この条件の求人をもっと見る
求人の検索結果を見る
< いつもと違うしごとも見てみませんか? >
覆面調査に関する求人(東京都)この条件の求人をもっと見る