社会保険の構造および値上げについて教えてください。

Question

社会保険の構造および値上げについて教えてください。ニュースで、社会保険料の引き上げは、国会を通さず、閣議決定で変更できるので、財源確保に使われてきたと取り上げられておりました。また、企業が従業員に払う価格は増額しているにもかかわらず、手取りは減少していっている。

会社の人件費として、事実上の賃上げはしているが、社会保険料の引き上げでかき消されている。この増加分が将来、労働者のために使われることもなく、恩恵も受けられないと思いました。

そこで、質問です。
平均的なもの、感覚的なものでもいいので、社会保険料は、増加される前の水準と今の水準でどのくらいの差異があるのでしょうか。
（事実上の増税の歴史が知りたいです。）

Answer 1

ニュースではなくてモーニングショーではないですか。
私も観ていて、いい加減なことをいうものだと腹を立てていました。
社会保険料というのは厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料がありますがこのうち雇用保険料は他の二つに比べて１桁以上少なく無視できるので他の二つについて説明します。
最大の厚生年金保険料の料率は平成１６年以降は法律（厚生年金保険法）で定められています。平成２９年以降は１８．３％に固定されていて、それ以上上げないということになっています。少子高齢化により保険料率がどんどん上がるのを避けるためです。収支のバランスをとるために支給額のほうの水準を下げるマクロ経済スライドという仕組みが働いています。
これを変えるのは法律の改正が必要で閣議で決められるようなことではありません。
平成１６年前についても保険料率の変更は法律の改正により行っていました。
健康保険料は協会けんぽ、各健康保険組合が決定するものであり、政府が決めるものではありません。また決め方も財政の均衡から決定するように決められていて、厚労省の認可も必要となります。綿密な財政の検証に基づいて決められているもので、政府の恣意が入る余地はありません。
問題は健保が負担している前期高齢者納付金、後期高齢者支援金でこれが年々増加しており、健保の財政悪化につながっています。この料率は政令で決定されますが、政府の恣意で決定できるものではなく、財政の検討結果によります。
そもそも「閣議で決定する」と言っても、政令はすべて閣議決定によるわけです。法律上”政令で定める”となっているものは、閣僚の話し合いで決めているわけではなく、決め方については法令で詳細に決められていて、場合によっては社会保障審議会の了承も必要であり、この場合閣議は上がってきたものを承認するという形式的な役割をしているだけです。閣議だけで決定するという言い方は誤解を招きます。
また、そもそも厚生年金保険料は厚生年金に、健康保険料は健康保険にしか使えないものですから、子育て支援に使えるものではない。
では番組で社会保険料を増額と言っているのは何だというのが大いに疑問です。多分子供・子育て支援金のことを言っているのではないかと想像します。これは子ども・子育て支援法で定められているものです。事業主のみが負担し社員の負担はありません。この料率は内閣総理大臣が決めることができます。令和４年度で標準報酬月額総額の０．３６％です。これは社会保険料と一緒に徴収されるため社会保険料のように見られがちですが、実際は税金です。またいわばその程度の額の話です。

まとめると
・社会保険料（厚生年金保険料、健康保険料）は政権の恣意で閣議決定で決められるものではない。また厚生年金保険、健康保険の支給にしか使えるものではない。従って
「社会保険料の引き上げは、国会を通さず、閣議決定で変更できるので、財源確保に使われてきた。」
は全くのでたらめ。

・厚生年金保険料は平成２９年度以降増えていない。「企業が従業員に払う価格は増額している」というのは健康保険料についてのみ成り立つが、健康保険料は厚生年金の約半分、また大多数の中小企業が加入している協会けんぽは１０％前後を保っている。介護保険料は例えば令和５年度で０．１８％の増加、増額の効果は限定的、それが原因で「手取りは減少していっている」というのは全く昇給が無い企業では成り立つが、多少昇給すれば打ち消される程度。

・子供・子育て支援金は社会保険料ではなく税金。また厚生年金保険料、健康保険料に比べると無視できる程度であり、それを指して社会保険料全体が「国会を通さず、閣議決定で変更できるので、財源確保に使われてきたと取り上げられておりました。また、企業が従業員に払う価格は増額しているにもかかわらず、手取りは減少していっている」などと思わせるのは明らかなミスリード。

この番組は社会保険関係等について誤った、あるいはミスリードさせる内容が多く、何度か具体的に誤りを指摘した抗議の意見書を送っているのですが、さっぱり反映されない。番組の制作態度に何らかのバイアスがかかっていると思わざるを得ません。（テレ朝だけでなく朝日新聞の記事にも同様なバイアスを感じます）

この番組に限らず、ワイドショーの内容を真に受けるのはやめたほうが良いと思います。